Porsche

清水和夫がポルシェを語る

■第132回 「ポルシェの2011年を振り返る」

2011年のポルシェは、「インテリジェントパフォーマンス」というメッセージを抜きにして語れない。このメッセージは、車におけるパフォーマンスと効率性、言い換えれば、ドライビングの魅力と環境対策をどのように両立させるか、というテーマに関するものであった。

もちろんこれは全ての自動車メーカーにとっての課題であるが、生粋のスポーツカーメーカーであるポルシェが発したことが重要だ。実際にこのスローガンの下、ポルシェが開発した新型車は、どれも燃費は著しく向上している一方、パフォーマンスは衰えることはなく、むしろその魅力は増していた。

まずカイエンとパナメーラのハイブリッドモデルが日本に導入された。両モデルともパラレル式のフルハイブリッドシステムを持ち、エンジンを止めたまま電気だけで走れるEV走行モードが備わっている。つまり2km前後の距離ならゼロエミッションで走ることができる。

アイドリングでエンジンが自動的に止まるのは当然だが、走行中でも平坦で長く伸びる道では、エンジンが一時的に止まりトランスミッションが切り離されることで燃料消費を抑える「コースティング機能」が備わっていた。アイドルストップ・回生ブレーキ・モーターアシスト・EV走行と、ハイブリッドシステムに求められる全ての機能がきちんと揃っている。

しかし、ポルシェが環境対策だけに終わらないのは先ほど述べたとおりだ。エンジンは3リッターV6のスーパーチャージャーだから、これだけでも十分なトルクが発生するが、さらにここにモーターの力を加えることでポルシェのV8エンジンに匹敵するパフォーマンスを叩き出す。カイエンSハイブリッド、パナメーラSハイブリッドと、モデル名にSが加わる所以だ。

モータースポーツの分野では、「918 RSRハイブリッド」の登場が記憶に新しい。春先のデトロイトモーターショーで発表されたこのコンセプトモデルは、エネルギー回生に機械式のKERSシステムを持ち、さらに電気モーターによる左右タイヤの駆動力制御というベクタリング機構を持っている。すでに918スパイダーがお披露目されていたが、そのレース仕様を用意したことで、先のスローガンが口先だけでないということをポルシェは証明した。

一方で、いわゆる「ポルシェらしい」モデルもきちんとあった。ケイマンRの登場は、ポルシェ・エンスー達に朗報だったろう。そのスパルタンないでたちに、私は思わず「911GT3の練習車」とレポートしたことがあったが、日本に上陸したケイマンRに乗ってみて、その言葉が間違っていたことに気がついた。ミッドシップクーペの素性のよさに、軽量化とパワーアップを果たしたケイマンRは、それ自体スポーツカーの理想系であった。

他にも、世界限定のブラックエディションモデルや、パナメーラGTSの登場など見所の多かった一年であるが、ハイブリッドで始まった2011年のポルシェのフィナーレは、やはり新型911カレラ、カレラSだろう。ポルシェと聞いて誰もがまず思い浮かべるアイコンモデルであり、それがゆえにポルシェの先進の技術を全て注ぎ込まれた新しい911は、まさしく「インテリジェントパフォーマンス」という言葉を体現するモデルになった。東京モーターショーでは新型911を見たくて多くの人垣ができていた。

Type991と呼ばれる新型911は、1997年に発表されたType996以来の大幅刷新であり、先代のType997から、約90%のコンポーネンツを一新した。ベースモデルの911カレラは、先代の3.6リッターエンジンからあえてダウンサイジングした3.4リッターを搭載。さらに安全装備を充実させながら約50kgも減量を果たしたのである。

その結果、PDK仕様車では、8.2リッター/100 kmで、燃料消費量においても先代モデルを1.6リッター下回り、走行距離1 kmあたりのCO 2排出量も194 g/kmとポルシェのスポーツカーとしては初めて200 g/kmを切ることに成功した。

パフォーマンスの向上は言うまでもない。新型911カレラの最高出力は先代モデルより5PS高い350 PS(257 kW)を発生、カレラSに至っては、3.8リッターのエンジンで400 PS(294 kW)を達成している。0-100km/hのタイムも短縮された。

さて、新型911における数々のトピックの中でも、ひと際重要なのが、100mm伸びたホイールベース。過去のエッセーで、「よりスポーツカーとしてのダイナミクスを磨き上げるためにはさらにタイヤを四隅に配置したかった」というポルシェのコメントを紹介したが、実際の新型911の試乗において強く印象に残ったことを最後に記しておこう。

先代のType997、その後期モデルより導入されたトランスミッション、PDKは、従来のティプロトニックSよりも全長が短く設計されていた。そのため、ティプトロニックSに合わせて設計されたType997では、ハウジングを工夫して PDKのギアボックスをリアタイヤの位置に合わせていたのである。

一方、新型のType991ではPDKを本来あるべき位置に置くために、ボディとサスペンションを新設計している。そのためリアタイヤはType997から70mm後方へ移動した。新開発された7速MTも同じように配置されている。

しかしType991の新しいプラットフォームをドライバーの着座位置から見ると、実はドライバーとエンジンの位置関係=距離はType997から変わっていないのである。こういったところにポルシェの非凡さは見え隠れする。

ハイブリッドで始まり新型911カレラで終わった2011年はポルシェにとっては大きな変化の年であった。2012年は、一体どんなことで我々を楽しませてくれるだろうか。

清水和夫氏

サーキットレース歴20年の豊富な経験を生かし、実戦経験を基にしたクルマの運動理論では日本の第一人者。