閉じる

N.HOOLYWOOD デザイナー
尾花大輔

節目を終えた今だからこそ、原点に立ち返り、古着の新たな価値を創造していく。

「僕自身、懐古主義はあまり好きではないけど、ヴィンテージそのものが懐古主義の最もたるものだから。だからこそ、僕はそれを新しく見せるということを伝えていきたい」

あっという間に叶えた、バイヤーになる夢

昨年、20周年を迎えたアパレルブランド「N.HOOLYWOOD」のデザイナー、尾花大輔さん。今や日本を代表するブランドへと築き上げた彼が、最初に夢を叶えたのは18歳のころだった。

彼が古着の世界にどっぷり浸かる、そもそものきっかけは中学生のころだという。お金はないけれど、おしゃれがしたいと思った彼は、家の近くにあった米軍基地の払い下げやセカンドハンドのショップに行き、知らず知らずのうちにヴィンテージの付加価値を手にしていった。そして、高校生になるとバイト先の古着屋の店頭に並ぶアイテムを見比べながら、独学でヴィンテージの知識を習得していく。

「その頃から、将来は古着のバイヤーになると思っていました。それも東京のど真ん中で勝負したくて、原宿にある古着の名門ショップで働くことになったんです」

すると数カ月後に大きなチャンスが訪れる。体調を崩した先輩に代わり、彼がアメリカへ買い付けに行くことになったのだ。

「それで、いきなり夢が叶っちゃったんです。ウェストコーストの古着がいっぱい集まった体育館のような場所で、埃まみれになりながら朝から晩までレアものを探していました」

もっと自由でいい――。NYでの経験がもたらした“気づき”

その後も2カ月に一度のペースで買い付けにいっていたが、3年半ほど経ったころ、高校時代の先輩とともに新たな古着屋を原宿に立ち上げる。経営は順調だったが、彼の心に次第に危機感が芽生え始めた。

「最初のころは大量にあった古着が行くたびに減っていくんです。限られた資源ではないけど、このまま続けていたらいずれ仕事がなくなるとすごく危機感を感じました。ちょうどそのころ、アメリカの若者たちがヴィンテージの付加価値をプレミアムなイメージではなく、もっと自由に、ファッションとして捉えている人が多かったんですよね。ボロボロの古着を自分でさらにカスタムしていたり。それを見て、あ、そうかと。日本はミントコンディションがすべてという価値観だけど、僕はこっちの方がおしゃれだなと思ったんです」

それが、2001年に立ち上げた「N.HOOLYWOOD」の原点だ。

「ガチガチに固めた知識を咀嚼して作っても、それが欲しいと思うかはまた別の問題。もっと感覚で表現していいんだと、NYでの経験が僕を自由にしてくれた」

「僕はデザインを勉強したわけではないから、とにかく、自分の中にたくさん情報を取り入れ、それを咀嚼して形にしてきました。だから、気になったら一生懸命調べるし、ある程度、情報が揃ったところで、初めて自信を持って人にアピールすることができた。でも、それもこの10年ほどで大きく変わったんですよね」

きっかけは2011年春夏コレクションの発表の場をNYに移したことだという。そこで彼は現地の人たちの流動的な思考や、感覚的に物事や表現を選択する姿を間近に見て、「ガチガチに固めた知識を咀嚼して出したら、多くの人は納得するけど、それを欲しいと思うかはまた別の問題」だと気づいた。

「NYの経験が僕を自由にしてくれた。それからはもっと感覚で表現していくようになりました。もちろん、何十年も積み重ねてきた経験が後押しになっていることも間違いないし、それがあったから、そういう考え方や行動に移れたんだと思う」

お金を貯めて好きな物を買う。そんな夢の始まりがあってもいい

そんな彼に今の夢を尋ねてみると意外な答えが返ってきた。

「僕はものすごく先の未来、こうなっていたいとかを考えたことがないんです。ありがたいことに、夢を考える前にやらなくちゃいけないプロジェクトが次々と押し寄せてくるので。ただ一つ言えるのは、もし今夢を探している人がいるとしたら、たとえば、お金を貯めて自分の好きな物を買い、それを広げていってもいいんじゃないかなと思う。僕も貯蓄するのではなく、そのお金で今まで買えなかった物や知識、経験を手にいれてきたから。大きな夢がないと不安になるくらいなら、そういう経験をしてみるのもいいのかなと思う」

そんな彼が手にしてきたものの一つに、Porsche911 カレラ2(タイプ964)がある。

「Porscheは乗るというよりも、纏うという感覚に近い。だから、40歳を過ぎたしかるべきタイミングで乗ることができたのは感慨深いし、不思議と飽きないクルマなんですよね」

彼にとってPorscheはものすごく偏ったものだというが、その偏りが心地よく、彼自身がこだわるスタイルを創造するときに大切な場となるそうだ。そんな彼に今後の展開を聞いてみた。

「僕自身、懐古主義はあまり好きではないけど、ヴィンテージそのものが懐古主義の最もたるものだから。だからこそ、僕はそれを新しく見せるということを伝えていきたいなと思う」