MAGAZINE

Life with PORSCHE

あなたの知らない、ポルシェの話。

敵わないものを愛する男。

セザンヌの絵に憧れたピカソの決断。

若かりしピカソが、パリのボエッシー通りに住んでいた頃、彼の部屋には、セザンヌの傑作の一枚「サント=ヴィクトワール山」が大切に飾られていた。

いくらピカソでもそうやすやすと、セザンヌの絵を手に入れられるはずがない。

どうやって手にいれたのか、と知人に聞かれたピカソは、「この絵には、自分がどんなにがんばっても敵わない。だから自分の絵二十五点と画商に交換してもらった」といった。

この時のピカソの潔さには驚くばかりだ。

自分を高めるために、いつまでも謙虚で、かぎりなく素直な心を失わないように、毎日セザンヌの絵と真正面から向き合っていたピカソ。

自分の敵わないものに憧れたい。敵わないものと向き合いたい。敵わないものを知りたい。男として僕はこのエピソードが大好きだ。

僕にとってのセザンヌはなにかと考えた。どうしたって敵わない、でも近づきたい、向き合いたい、元気を毎日くれるもの、それはなんだろうと。

「ポルシェというスポーツカー」。迷うことなくそう答える自分がいる。

1960年代、数々のレースシーンで活躍したポルシェ718。この伝説のモデルを現代に蘇らせたのがケイマンだ。もちろん、718伝統のミッドシップエンジンレイアウトが採用されている。

「小型で軽量、そしてエネルギー効率に優れたスポーツカー。私は自らが理想とするこうした車を探したが、どこにも見つからなかった。だから自分で造ることにした」。

人車一体のドライビング感覚を味わいながら、ふとポルシェの創業者フェリー・ポルシェ工学博士のこんな言葉が頭をよぎる。ポルシェが守り続ける正統と美学の真髄がここにある。

ケイマンと向き合うたびに、敵わないポルシェに恋い焦がれる自分がいる。

Words:松浦弥太郎 / Yataro Matsuura

STORYTELLER

松浦弥太郎 / Yataro Matsuura
「くらしのきほん」主宰 / 文筆家
2005年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年7月にウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。2017年、(株)おいしい健康・共同CEOに就任。「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。

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