MAGAZINE

Life with PORSCHE

あなたの知らない、ポルシェの話。

ポルシェという
演奏家について。

クラシック好きの妻からのメッセージ。

ポルシェを運転する楽しさは、腰を後ろから押されるようなダイナミックな加速性や、曲がりたいように曲がり、止まりたいように止まる美しい操作性の他に、言葉で言い表せないほどに心地よいエグゾーストサウンドがある。

過日ポルシェを駆って、パリからリヨンを抜け、マルセイユまで向かった旅では、ポルシェという音楽を発見し、味わった体験として記憶に残っている。

その時に感じたのは、もし自分が一人ならば、その一人である自分のために。またもしも、家族や友人、パートナーが一緒であるならば、そういう人たちのために、あたかもポルシェが、何かしらを作曲しているような、美しいエグゾーストサウンドという音楽を聴かせてくれる喜びだった。

まさに運転をしながら全身で聴く音楽がポルシェにはある。大げさなようだがほんとうだ。ポルシェ一台一台が、それぞれ固有な音楽と、響きと、気に入りの音色を持っていることも付け加えておきたい。

ある晴れた休日、妻と二人で、わが家にやってきた新しい718ボクスターを高原が広がる田園地帯へ走らせた。

ドライブ中、必ず音楽をかけたがるクラシック好きの妻が、今日のためのプレイリストを準備していたのは言うまでもない。

しかし、ボクスターを走らせると、水平対向4気筒ターボエンジンの音色は、風と混ざりあった独特の音楽へとなって、すぐに私たちを包み込んだ。僕はいつかのウィーンでの旅を思い出した。そうだ、この感覚。エンジン音を全身で味わうこの心地よさ。僕はついつい妻と一緒であることを忘れて、ボクスターのドライブに没頭してしまった。

ふと助手席を見ると、安らかな表情で目をつむる妻の姿があった。気を使って「何か音楽をかけようか?」と声をかけた。すると、「ううん、いいの。このままで」と妻はいった。僕はさらにアクセルを静かに踏み込んだ。すると、風を含んだボクスターのエグゾーストサウンドは、音色から音楽へと変わっていった。減速し、いくつか緩いカーブを曲がり、また加速をすると、音楽はいつしか軽やかな演奏となり、ドライブ中、私たちを存分に楽しませた。

クルマを止めると、「ボクスターは傑作ね」と妻がいった。「そうさ、俊敏さがずば抜けているだろ。デザインもいい」というと、「いいえ、それだけじゃないわ。音よ」。

「ずっと聴いていたいくらいこの音が私は好き……」と妻はいった。

Words:松浦弥太郎 / Yataro Matsuura

STORYTELLER

松浦弥太郎 / Yataro Matsuura
「くらしのきほん」主宰 / 文筆家
2005年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年7月にウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。2017年、(株)おいしい健康・共同CEOに就任。「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。

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