MAGAZINE

Life with PORSCHE

あなたの知らない、ポルシェの話。

夢を語る家族。

「旅」の時間がくれたもの。

日曜日の早朝。「さてと、旅に出るか」といって、腕にクロノグラフをつけ、ジャケットを羽織った。その日も、息子と二人で、「旅」という名のドライブをする約束だった。

「ドライブっていうのは、「旅」なんだ。だって、行きたいところへ行けるからね。「どこへ行こうか?」。なんていうこと自体、旅以外なにものでもない。旅は自由なんだ」。

ある日こういうと、「すごいなあ。どこへでも行けるとか、自由とか、旅はいいなあ。行きたいなあ」と、十歳の息子は目をきらきらさせていった。

それ以来、休日になると息子は「旅」に出たがった。そして、「行ったことがないところに行くのが旅だぜ。ウチのマカンはどこへでも行けるし」。なんて一丁前のことをいって、僕を感心させた。

ということで、いつしか男同士の間では、わが家のマカンを「旅の友」と呼んでいた。

僕らはマカンを駆って、山や川へ行ったり、息子の好きなサッカーを見に行ったりして休日の「旅」を存分に楽しんだ。そして、そんな日の夕食は、テーブルを囲んだ家族を巻き込んで、「今日の旅」の話で盛り上がった。

「たかだかドライブを旅なんていってバカみたい」。妻と高校生の娘は、そんな男の旅を鼻で笑った。しかし、二人とも「旅」に興味があることを僕は知っていた。「私ならここに行きたい」「どこそこがきれいよ」「買い物ならあそこね」といつも会話をはさんできたからだ。

ある日、僕と息子は、妻と娘を「旅」に誘った。行き先と過ごし方は、主役である彼女たちに任せた。

「海がいいわ。この季節ならではの静かな海を見にいきましょう。そして、ドライブ中にひとりひとりの夢を話しましょうよ。自由に夢を語るの。「旅」で。すてきでしょ」

妻の提案に娘も賛成をした。

その日の旅は、それまで出かけた家族での旅のなかでいちばん楽しいひとときとなった。ドライブ中にそれぞれが語った夢の話が思いの外、面白かったり、じんわりと胸に響いたりして、家族同士こんなに語り合ったのは、はじめてかもしれない。季節外れの海も、実に美しかった。

結局、その日の「旅」だけでは、みんなの話は終わらず、夕食を食べながらも、夢の話は延々と続いた。

「ドライブって不思議と普段話しにくいことも話せるね。楽しかったわ。またみんなで「旅」に行こうよ」

娘がそういうと「旅は自由だからね」と息子がいった。僕は妻の夢を、もっとたくさん聞きたいと思った。

Words:松浦弥太郎 / Yataro Matsuura

STORYTELLER

松浦弥太郎 / Yataro Matsuura
「くらしのきほん」主宰 / 文筆家
2005年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年7月にウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。2017年、(株)おいしい健康・共同CEOに就任。「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。

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