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音楽家 大沢伸一

今、聴きたい音楽を幅広く――。最先端のダンスミュージックが音楽シーンを沸かせる。

「この世に存在しているものから1ミリでも違うものを作りたい。その思いがあるから、毎回グチャグチャした音楽の破片の中から、自分に響いたものだけを集めてパズルのように音楽を作っている」

多様な価値観を認めるニューウェーブが音楽の原点

作曲家、DJ、プロデューサーとさまざまな顔を持つ音楽家・大沢伸一さん。2022年2月9日に、自身が率いるコラボレーションユニット「MONDO GROSSO」で、満島ひかりさんや田島貴男さんら錚々たるアーティストをボーカリストに迎えたニューアルバム『BIG WORLD』をリリースし、大きな話題となった。彼が生み出す音楽は常に革新的で、幅広いジャンルと時代にマッチしたフレッシュさが魅力だ。

「僕自身、同じようなものを作ることが耐えられないし、この世に存在しているものから1ミリでも違うものを作りたいという思いがあるから、自分の中では割と自然なことなんです。ただこれは鍛錬することで上手にできるものではないし、自分の心の中の問題なので、毎回、グチャグチャした音楽の破片の中から自分に響いたものだけを集めて、パズルのように作っています」

彼の音楽の原点は1970年代にロンドンで生まれたニューウェーブだ。さまざまな音楽に触れるきっかけになっただけではなく、周囲に共感できなかった彼の価値観もまた一つの価値だと肯定してくれるものでもあった。

そのニューウェーブに通じるものがPorscheにもあると彼はいう。“20世紀最高の自動車設計者”といわれるフェルディナト・ポルシェが、当時、誰も想像しなかったアイデアで大衆車だったフォルクスワーゲンをスポーツカーへと昇華させたストーリーは、今も彼の心に響く。そして、初めてPorscheを運転したときの後ろから蹴り飛ばされるような衝撃も、一瞬にして彼を虜にさせてしまった。それ以来、20年以上も乗り続け、音源の最終チェックも愛車で行うというほど、Porscheは彼の一部になっている。

「環境問題にはいろいろな考えがあると思う。ただ僕のアクションが何かを考えるきっかけになったらいいし、僕は自分の責任の取れる範囲で小さな模範になれたらいいなと思っています」

社会が混沌とする今、大事なのは“明日よりも今日”

今、彼の一番の楽しみは1970年の911Sをレストモッドすることだという。レストモッドとは、レストア(回復)しつつ、現代の生活にフィットできるようにモディファイ(一部変更)することで、ヨーロッパでは新たな旧車の楽しみ方として時代の潮流に乗りつつある。

「オリジナル性を損なうといった意見もあるけど、僕は今の技術でより高いパフォーマンスが得られることに期待しました。でも、僕が最終的にやりたいのは、そのPorscheにエレクトリックエンジンをインストールして乗ることなんです。古くてもいいクルマを一生乗り続けることは、僕にとって一番のエコだと思うから、いつか実現したい」

エコロジーやサスティナブルも、彼が関心を寄せるテーマだ。2021年には、東京・代々木にヴィーガンショップ「THE NUTS EXCHANGE」をオープンしたり、役目を終えた物をクリエイションで未来へとつなぐアップサイクルショップ「OFFICIAL GHOST」を手がけたりと新境地を開いている。

「環境問題にはいろいろな考え方があると思う。僕も知識をインプットしていく中、現時点で得られた結論は『誰も正解を持っていない』ということでした。でも、何もしないよりもアクションは起こした方がいいと思うから、仮に取り越し苦労だったとしても、この取り組みはまんざら悪くはないなと思うんです。僕のアクションが何かを考えるきっかけになったらいいし、僕は自分の責任の取れる範囲で小さな模範になれたらいいなと思っています」

社会が混沌とする今。行動を起こすことや、言葉にして思いを伝えることは大切だ。ここ数年、彼はそういったことも含めて、“明日よりも今日”という思いをより強く感じているという。

「今、やりたいことがあるならやるべきだし、欲しいものがあるなら買った方がいい。お金は何かに引き換えないと価値は生まれないと思うから、それなら自分への投資でもいいし、ものや旅行、食事でもいいから、今日の自分が一番喜ぶことに使った方がいいと思う。今、楽しそうにしている人が本当に少ないから、それが一番大事なのかなと思うようになりましたね」

プライベートのバケットリストを楽しみながら探したい

今回の『Bucket List-Driven by Dreams』の出演に際し、自身のバケットリストに思いを巡らした彼は、プライベートのバケットリストが空白であることに気づいたという。

「今、『RHYME SO』のアルバムを制作していますし、『MONDO GROSSO』としても引き続きDJショーはやっていく予定です。あと『SHINICHI OSAWA』としてのソロ活動もそろそろ取り掛かろうと思っています。こうして今もやりたい音楽をずっと続けられていることは本当にラッキーなことだと思うのですが、それ以外の自分の楽しみがあまりないなと気づいたんです。もちろん、Porscheを運転しているときはすごく楽しいけど。今、僕が抱えている問題は趣味がないことですね。俺の人生、これでいいのかという感じかな(笑)」

『今日は何もしなくていい』といわれたら困ると彼はいうが、それでも「まずは猫2匹の世話をして、それからPorscheに乗って関西を目指すかな」と答える。

「今はプライベートのバケットリストを見つける必要がありますね。それを楽しみながら探していきたいと思います」